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歌舞伎の血筋社会を描く映画『国宝』感想|女形誕生の歴史も調べてみた

歌舞伎の世界を知れて面白かったー

「映画「国宝」の感想を知りたい」
「歌舞伎の豆知識が知りたい」
「女形が誕生した背景は?」

吉田修一の小説を映画化した『国宝』を観ました。
正直「長い!」と思う場面もありましたが、それを上回るほど圧倒的な映像美と、歌舞伎の世界を生々しく描いた人間ドラマに引き込まれました。
この記事では、感想とあわせて、作品を理解するために押さえておきたい歌舞伎の基礎知識もまとめます。

一部ネタバレを含む感想になるので注意。

映画『国宝』とは?簡単な紹介 & あらすじ

『国宝』は、吉田修一の小説を李相日監督が映画化した人間ドラマ。
タイトルは「人間国宝(重要無形文化財保持者)」の意を含め、芸に人生を捧げた主人公を示しています 。

あらすじ ヤクザの一子・喜久雄は、父を抗争で亡くし、身寄りがなくなるが、上方歌舞伎の名門・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の道へ入ることに。
そこで半二郎の息子・俊介と切磋琢磨しながら成長していきます。
ある事故で半二郎が舞台に立てず、代役に俊介ではなく喜久雄が起用され、2人の運命は大きく動き出します 。

キャストと制作陣 主演:吉沢亮(喜久雄)、横浜流星(俊介)、渡辺謙(花井半二郎)、寺島しのぶ(幸子)、高畑充希(春江)
脚本:奥寺佐渡子(『サマー・ウォーズ』など)

また本作は、公開73日で105億円を突破し、邦画実写としては22年ぶりの快挙。
記事を書いている現在では110億円を超え、2025年を代表する作品になりました。

私は話題になっていて、さすがに気になったので見に行きました。

映画 『国宝』 の感想

歌舞伎の世界の生々しさ

圧倒的血筋社会
主人公は女形の才能を持ちながらも「血が全て」という現実に苦しむ。
政略結婚や後ろ盾の喪失など、閉ざされた伝統世界がリアルに描かれていました。

生まれたときから歌舞伎の世界を生きることが決まった血の通った同い年のライバル。
二人はともに成長していきましたが、対照的な存在ではありました。

血を飲み干したいほど、血筋に憧れる主人公。
楽観的な性格でも逃げ出すほど、歌舞伎の血筋ならではの苦悩、プレッシャー。

歌舞伎自体も「重要無形文化財」として指定されたり、人間国宝にも歌舞伎役者が選ばれるなど、歴史を重んじて大事にされています。
特殊な文化ということもあり、人々の犠牲や葛藤で成り立っているのでしょうね。

歌舞伎の裏の力関係
現実ではわかりませんが、作中では反社会的勢力との絡みがあったり、芸能事務所(スポンサー?)との力関係があったりと、裏側が垣間見えました。
歌舞伎の世界でも、いろいろなしきたりや力関係で成り立っているんだなと思いました。

厳しい稽古
芸を守るための厳しさが、ときに残酷にすら感じられるほど描かれていました。
今ならパワハラで問題になるような感じ。

市川海老蔵さんが国宝の感想を語るYouTubeがあるのですが、「小さい頃はもっと酷かった」と。
映画以上なのかと驚きましたが、そのくらい厳しい世界なのですね。

youtu.be

人間ドラマに惹かれた

主人公の人生
ヤクザの子として生まれ、親を亡くし、歌舞伎に拾われる。
最初の恋は親友に奪われるが、それも含めて彼の成長の姿をみれます。
どんな過酷な状況でも、常に血筋問題に悩まされながらも、最後は歌舞伎を極め続ける主人公の底力というか、強さがすごかった。

友情の行方
親方の息子であり親友との関係は、血筋と才能の対比そのもの。
時にぶつかり、時に支え合う姿は胸を打ちました。
最後までいろいろなことがありましたが、お互いの存在が成長に不可欠だったと思います。
本当にいいコンビだった。

親子の物語
すべてを犠牲にして、歌舞伎の芸を磨いた主人公。
再開した娘からは一度も、父親と思ったことはないと言われる。
しかし娘から「お父さん、日本一になったね」と言われるシーンは、血筋に苦しんできた主人公が報われる瞬間であり、観ていて感情を揺さぶられました。
歌舞伎に限らず、血がつながっているとこうことの大きさを物語っていますね。

映像表現と臨場感

舞台の息遣いや布の擦れる音まで聞こえる演出が素晴らしく、観客席にいるような緊張感。
余計なBGMを排し、俳優の演技と舞台そのものの迫力を感じられました。

舞台前の緊張シーンは私も心臓バクバクになりました。

心に残った言葉

「歌舞伎が嫌い?でもそれでいいの。それでもやるの。」 この台詞は、人生の普遍的な真理にも通じる気がします。   誰もが「嫌でもやらなきゃいけないこと」を抱えて生きているからこそ、重く響きました。

JOKERみたいなシーン

歌舞伎から追い出される事になった主人公。
ずっと歌舞伎の世界で生きてきた主人公にとって、外の世界は残酷でした。
歌舞伎に興味がないような客の前で、踊りを披露するなどしてなんとか生きていましたが、歌舞伎のリスペクトもなく、バカにされる。

やめたくなる状況でも、これしかないんだという、悲しい表情で屋上で踊るシーン。
JOKER(ホアキン・フェニックス主演)の様々な感情が入り混じった踊りのように見えました。

そんなことを思っていたら、十三代目 市川團十郎さんの感想でも、JOKERみたいだったと言っており、同じことを思った人もいるんだなと嬉しくなりました。

youtu.be

人間国宝の演技をみてみたい…

実際に歌舞伎を見たくなりました。
人間国宝の演技に観客が感動するシーンがあり、皆絶句して称賛していました。

私は歌舞伎を見たこともない素人ですが、人間国宝の演技をぜひみてみたくなりました。

歌舞伎の基礎知識

映画を観て歌舞伎に興味が湧いた人のために、簡単にまとめておきます。

なぜ男が女形を演じる?

江戸初期には女性が舞台に立っていましたが、遊女が舞台に立つこともあり、客同士の色恋沙汰のトラブルが多かったそうです。
風紀を乱すとして幕府が禁止しました。
代わりに美少年(若衆)が舞台に立ちましたが、これも色恋の対象となり問題化。
結果として、成人男性だけの芸能へと移行します。
この過程で「女形(おんながた)」という役柄が生まれ、男性が女性以上に女性らしさを表現する芸として洗練されていきました。
背景には、江戸時代に普通に存在していた男色文化や、娯楽と風俗が密接だった都市社会の事情もあります。
つまり女形は、社会の規制と当時の性文化が生んだ独自の芸術なのです。

血筋の力

歌舞伎は「血筋社会」と呼ばれ、名跡(有名な芸名)はほとんどが世襲制で継承されます。
弟子入りして端役から努力しても、スターの座に上り詰めるのは極めて難しく、現実的には家系か養子でないと大名跡は継げません。
観客も「○代目○○」という名前にブランドを感じ、看板そのものを観に行く文化があります。

『国宝』の主人公のように血筋に頼らず才能だけで大成するケースは、現実の歌舞伎ではほぼ存在しません。
閉ざされた仕組みである一方、それが歌舞伎を「守られた芸能」にしてきた理由でもあります。

人間国宝とは?

人間国宝の正式名称は「重要無形文化財保持者」。
歌舞伎だけでなく、能・文楽・日本舞踊・落語、さらに陶芸や染織などの工芸分野でも認定されます。
国が「この人の芸は文化財そのもの」と認める制度です。 歌舞伎の大名跡を継いだ役者が選ばれることも多く、後進を育てる役割も期待されています。
一度認定されれば基本的に生涯続き、剥奪されることはほとんどありません。

初めて知ったのですが、年間200万円ほどの助成金が支給されます。
これは生活費ではなく伝承活動の支援という位置づけらしいです。
まさに「芸そのものが国に守られている」証といえるでしょう。

市場規模

歌舞伎の年間観客数は約100〜150万人、興行収入は150〜200億円規模です。
宝塚(観客250万人・250億円規模)より小さく、観客層も高齢化が進んでいます。

興行は松竹株式会社が独占しており、役者のキャスティングからチケット販売まですべて松竹が管理しています。
この独占体制は安定的に歌舞伎を存続させる一方で、新しい観客を呼び込む工夫が欠かせません。
現在は『ワンピース』や『ナルト』などの新作歌舞伎、海外公演で若年層や外国人観客を取り込む挑戦も行われています。

宝塚歌劇団と関係ある?

歌舞伎は男性だけで女性を演じ、宝塚は女性だけで男性を演じるという“逆パターン”です。
歌舞伎が国の重要無形文化財でありユネスコ無形文化遺産にも登録されているのに対し、宝塚は近代に誕生した商業演劇として発展しました。
観客層も異なり、歌舞伎は年配層や観光客が中心、宝塚は女性ファンが中心です。
共通するのは「性を超えた表現に独自の美学がある」という点で、日本独自の文化として両立しています。

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まとめ

『国宝』は、「血筋が全て」という歌舞伎の現実を背景にしつつ、それでも芸に人生を捧げる主人公の姿を描いた重厚な人間ドラマでした。
観終わった後は「歌舞伎を実際に観てみたい」「人間国宝の演技を死ぬまでに一度は体験したい」と思わせてくれる作品。

歌舞伎を知らない人でも、この映画をきっかけに興味を持つのに十分だと思います。